「『松の湯』の再生を考える」
松の湯再生WS
冬の松の湯
青森県黒石市の中心市街地「こみせ通り」を中心とした黒石市中町地区は平成17年に重要伝統的建造物群保存地区(重伝健)の選定を受けています。かつて銭湯として住民の社交場であった「旧松の湯」は、重伝建の中にあり、老朽化と保存という難しい課題を抱えながら、再生の時を待っています。
平成21年8月に「学生と地域との連携によるシャレットワークショップ〜黒石の『こみせ』とまちをつなぐデザインを考える〜」が開催されました。このシャレットワークショップでは、「こみせ」や「かぐじ」を中心にした今後の黒石のまちのあるべき姿について、全国から公募により集まった建築・都市計画系の大学院生・学生33名が、5泊6日という日程で地域の方々や専門家と討論しながら実践的なデザイン・計画を行い、提案を行っています。シャレットワークショップのテーマの中でも、「旧松の湯」の再生をテーマとした提案は、平成21年2月に市が取得したことで、地域の喫緊の課題となった「松の湯」であることから、市民の方々からも強く関心を示していただきました。
今回の「『松の湯』の再生を考える」では、シャレットワークショップでの案を発展させた計画案を基に、その実現可能性について市民参加型ワークショップによって検討します(フィージビリティスタディ)。また、ワークショップ翌日には、これらの成果を話題提供として、市長及び学識経験者によるシンポジウムを開催し、市民とのディスカッションを行います。ワークショップとシンポジウムを通した中身の濃い議論により、「松の湯」再生の活力となることを目的とします。
市民ワークショップ |
2010年1月23日(土)―1日目― シャレットWS参加学生再び!市民と松の湯の活用を考える
すっかり雪の積もった黒石市に、昨年夏に行われたシャレットワークショップ参加者の中から9名が再び黒石にやってきました。シャレットワークショップの松の湯案を基に、学生と市民が同じグループの中で議論し、「松の湯」のあり方を考えます。
学生が続々と会場に到着し、その後、市民の方々が受付を済ませて、グループごとに席に座り、12時30分より「『松の湯』の再生を考える」が始まります。オリエンテーションでは、小林正美教授(明治大学)より、主旨説明と昨年夏に開催したシャレットワークショップの報告が行われ、今回参加の学生9名も一人ずつ自己紹介を行いました。
会場の様子 参加学生の自己紹介
13時から、会場を今回のテーマである「松の湯」に移して、参加者・関係者全員で見学会を行いました。見学時には、「松の湯」を担当している、黒石市教育委員会文化課の三上厚子氏により、松の湯の再生のポイントや活用に向けた検討課題の説明がありました。松の木が支えているような力強さを感じる、木造の元銭湯である「松の湯」を肌で感じ、参加者は皆、「松の湯」の再生に期待を寄せます。
レクチャーを受けながらの「松の湯見学」の様子
14時30分には、会場に戻り、ワークショップの議論の題材として、昨年夏に開催した「シャレットワークショップ」の「松の湯学生案」を学生が発表しました。会場の後方には、学生の「シャレットワークショップ」のパネルや模型が展示してあり、昼と夜の時間によって変わる使い方や地域の交流の拠点の在り方が提案されています。
「松の湯・シャレットワークショップ学生案」の発表の様子
15時頃には、市民と学生が混在した4つのグループに分かれ、「松の湯」のあり方や活用方法について、熱い議論を交わしました。学生がファシリテーター(グループの進行役)を務めながら行われる、学生と市民の「松の湯」についての議論に、時間を忘れるほどに、参加者は夢中になっていきました。
ワークショップ会場の様子
ワークショップで議論をするC班 ワークショップで議論するD班
16時30分頃には、「あと30分!」というタイムキーパーの声もかかり、議論の内容を急いで模造紙とポストイットを用いて学生がまとめていきます。まとめの作業中も、「松の湯」についての熱い議論は、時間ギリギリまで並行して続いていきました。
模造紙に議論の内容をまとめるA班 模造紙に議論の内容をまとめるB班
17時過ぎには、グループ毎に議論の内容をまとめた模造紙を会場の前方に貼りだし、グループを代表して学生が議論の内容を発表していきます。「松の湯」のあり方として、「銭塔」で「せんとう」と呼び、まち全体の連携によって、おもてなしのシンボルにする案や、FMスタジオにして、地域の情報発信と交流の拠点にする案、運営を市民参加のプロセスの中で官民協働で考えていくべきという主張、「松の湯」と一緒に周辺の施設も一緒に整備していくべき、という案などが発表されました。
A班の発表の様子 B班の発表の様子
C班の発表の様子 D班の発表の様子
グループの発表の後、市民からの質問を受ける、フリーディスカッションとなりました。市民もワークショップの中で言い残したこと、これだけは主張しておきたいこと、各グループの発表に対する意見など、活発なディスカッションが行われました。その内容を小林正美教授は模造紙にまとめ、成果ダイアグラムとしてまとめられました。市民ワークショップは以上のプログラムで終了し、市民たちは明日のシンポジウムを楽しみにしながら会場を後にしました。
小林正美教授による議論のまとめの様子 市民による質問・ディスカッションの様子
学生たちは休憩の後、グループごとに、市民との議論をまとめた模造紙をもとに、議論の内容やアイデアを整理し、スケッチやパワーポイントなど、ビジュアルな表現を用いてわかりやすい成果にまとめ直します。この辺りは、「シャレットワークショップ」の作業風景が頭を過ります。学生が作業を続ける中、1日目の夜はふけていきます。
A班のグループ作業の様子 B班のグループ作業の様子
C班のグループ作業の様子 D班のグループ作業の様子
公開シンポジウム |
2010年1月24日(日)―2日目―
市民・行政・学生・専門家が一緒になって「松の湯再生」の方向性を議論する!
1日目の「松の湯」についての市民と学生の議論を踏まえ、市民、行政、学生、専門家が「松の湯」の再生の方向性を議論します。前夜まで作業を行った学生による成果のまとめの発表、市長、市民、専門家、学生を交えたパネルディスカッションを行い、「松の湯」のあり方の方向性をまとめます。
午前中には、学生が集まり、グループ作業の詰めの作業を行っています。まとめの作業や発表のリハーサルを行い、シンポジウムに臨みます。
学生グループ作業の様子
13時になると、会場には市民を中心に席が埋まり、公開シンポジウムのスタートです!鳴海広道黒石市長より開会あいさつをいただき、北原啓司教授(弘前大学)によるコーディネーター挨拶、「松の湯」の担当である黒石市教育委員会文化課須藤課長の挨拶の後、小林正美教授より、公開シンポジウムの主旨と市民ワークショップ(23日)の振返りを行います。
鳴海広道(黒石市長)による開会挨拶 小林正美教授による主旨説明
13時30分を過ぎると、昨年夏に開催された、「シャレットワークショップ」で提案された「松の湯学生案」を学生が発表した後、市民ワークショップ(23日)の議論の成果を学生グループが整理し、スケッチなどのビジュアルな表現でわかりやすくまとめたパワーポイントを学生が発表しました。その後、小林正美教授が市民ワークショップのまとめと総括を行いました。
A班の発表の様子 B班の発表の様子
C班の発表の様子 D班の発表の様子
15時を過ぎ、休憩・会場設営の時間を挟み、パネルディスカッションに移りました。パネリストが1人ずつ、「松の湯」の活用や管理のあり方についてコメントを述べました。そして、パネリストの中で、筧正明氏(社団法人青森県建築士会南黒支部)がこれまでの「こみせ」や「松の湯」における活動のうち、小学生を対象とした取組みなどを中心に報告を行いました。
パネルディスカッションの様子 筧正明(社団法人青森県建築士会南黒支部)の発表の様子
16時頃には、市民から質問を受け、パネリストと学生と、「松の湯」の活用・管理のあり方について、ディスカッションを行いました。そして、最後には、コーディネーター・北原啓司教授(弘前大学)から、シンポジウムの議論のまとめとして、「『松の湯再生に向けた提言(こみせアジェンダ)』−誰もが「松の湯」を『自分の場所』にするために−」の提言(アジェンダ)を市民の前で掲示し、シンポジウムは終了した。
市民とのディスカッションの様子 北原啓司教授による提言(アジェンダ)の掲示
文責:泉山塁威/NPO法人まちづくりデザインサポート