黒石シャレットワークショップ


2009年(社)日本建築学会大会(東北)記念行事

学生と地域との連携によるシャレットワークショップ

−黒石の「こみせ」とまちをつなぐデザインを考える−


青森県黒石市中町地区(重要伝統的建造物群保存地区)「こみせ」通り


 青森県黒石市の中心市街地、「こみせ通り」は、雪の多い風土から生まれたヴァナキュラーのデザインとしての「こみせ」を中心にまちづくりを進めています。この「こみせ通り」を中心とした黒石市中町地区は平成17年に重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)の指定も受けています。しかし、全国の地方都市で見られる中心市街地の空洞化は、ここ黒石でも非常に深刻であり、観光資源として脚光を浴びる「こみせ」が黒石市の活性化と有機的につながっているとは言いがたい状況にあります。そこで本ワークショップでは、この「こみせ」を中心にした今後の黒石のまちのあるべき姿について、公募によって選ばれた全国の都市計画系の大学院生・学生が5日間、時間と空間を共にしつつ、地域の方々や専門家と討論しながら、実践的なデザイン・計画を行い、地域に提案します。                                              WS概要ppt.




2009年8月19日(水)―1日目― 全国の建築学生が集合!まちを歩き、課題を発見します。


黒石市の隣の市である弘前市に位置するJR弘前駅に、全国の建築・都市デザイン系の大学院生・大学生34名が12時に集まりました。南は九州大学、北は地元の弘前大学の、意欲ある若者が出揃いました。13時に学生たちは弘前駅コンコースで受付を済ませ、講師・スタッフとともにガイダンスでワークショップの流れと諸注意などの説明を受けました。緊張や期待に表情を引き締めた学生たちは、弘前市と黒石市を結ぶ私鉄弘南鉄道に乗り、車窓から望むまちなみと田園風景を見ながら、黒石駅に向かいます。

受付の様子                                                       ガイダンスの様子


 14時に到着した黒石駅からは、講師や地元団体の方と共に、いくつかのグループに分かれてのまち歩きです。特定のポイントに黒石市、黒石市教育委員会を中心とした地元の人が待機し、学生に見るべきポイントを解説しました。地図を片手に持った学生たちは、カメラでまちを撮影し、ポイントを押さえたレクチャの内容や、まちを見た印象・「気づき」を熱心に記録していました。この頃には、初めて会った学生たちもグループ内で打ち解けていました。

講師や黒石市、黒石市教育委員会、(社)青森県建築士会のレクチャ・まち歩きの様子


 16時を過ぎ、まち歩きを終えた学生は、そのままチーム毎に机を囲み、ポストイットやペンを持ってディスカッションをしながら、まち歩きの印象や提案につながりそうなテーマを模造紙にまとめていきます。ディスカッションをしていると、時間がなくて焦って模造紙をまとめる学生たち、グループで意見がまとまっていない班もありますが、それでも発表は堂々と自分の意見を主張していました。


まち歩きの印象をまとめるグループ作業と発表の様子


発表が終わり19時を回ると、外の会場では地元の方との食事を楽しむウェルカムパーティです。そして、地元の方と学生、講師・スタッフが交わり、楽しく食事を楽しんでいると、車座に上がって大学ごとで行う自己紹介タイムに。南の九州大学から始まり、地元大学である北の弘前大学という順番で、大学ごとに学生と講師が一緒に舞台に上がって自己紹介を行い、大いに盛り上がりました。

大学ごとに自己紹介をする学生(神奈川大学)     スタッフを務めた地元の弘前大学の学生と北原先生


 自己紹介が終わると、黒石名物の「よされ踊り」を地元の方の踊りに倣って、学生、講師、みんなで踊り、夜遅くまで親睦を図りました。

地元の方と一緒に「よされ踊り」を踊る学生・講師・スタッフ




009年8月20日(木)―2日目―
提案するテーマとグループを決めて、まちの調査と熱い議論が始まる。



 翌朝10時に作業場に集合し、提案をする前に考えるべきポイントや提案テーマを決める際に参考になるエッセンスを伝える、講師によるレクチャから2日目はスタートします。小林先生(明治大学教授)によるレクチャ2「アーバンデザインって何?」では、アーバンデザインの考え方や国内外のまちづくりの事例についての紹介があり、学生たちは熱心にレクチャを聴いていました。続いて、北原先生(弘前大学教授)によるレクチャ3「黒石のこみせに皆さんは何を見たのか?」では、黒石について考えるべきポイントや黒石市が抱えている課題などの紹介があり、冬の黒石の写真に驚く学生の姿がありました。

レクチャ2「アーバンデザインって何?」(小林先生)  レクチャ3「黒石のこみせに皆さんは何を見たのか?」(北原先生)


 11時頃には、レクチャを踏まえて提案テーマと提案グループ編成を行います。1日目の学生の印象発表の内容と講師陣の意見を踏まえ、6テーマを示し、学生たちは希望するテーマに集い、それを調整する形で、可能な限り希望のグループに入るように班編成を行いました。学生たちからテーマに対しての意見がいくつか出て、学生と講師の活発なディスカッションとなりました。

提案テーマをもとにディスカッション                     提案グループ編成の様子


 ここからは、グループ毎での作業がスケジュールの中心となります。提案のテーマに関する詳細な調査(建物の現況や空地の分布など)やグループディスカッションを行い、模造紙にまとめて、18時頃からエスキスチェックを行いました。まとめた模造紙は、全体的に具体的な地図に色が塗られるなど、少々ビジュアルで具体的な内容になってきました。エスキスチェックでは、学生の発表内容に対し、講師陣から鋭いコメントが多く出たのにも関わらず、学生たちも負けずと意見を主張するなど、活発な意見交換・集団指導となりました。


グループ作業の様子                             エスキスチェックの様子


 エスキスチェックが終了すると、学生たちは少々リラックスして、地元の人から差し入れを頬張りながら、講師からの指導を踏まえて、集中してディスカッションを行い、提案を練り上げていた。シャレットワークショップもあと3日と先があるので、無理をしない程度に夜遅くまで作業を行っていた。


集中したディスカッション・グループ作業の様子





2009年8月21日(金) ―3日目― 
いよいよグループ作業も本格的に始まり、市民の前での中間発表と意見交換だ。



 9時頃に、学生たちはグループごとに作業場に集まり、作業に入りました。3日目からは学生各自持参してきたノートパソコンを使って、作業するグループが増えてきました。そして、適宜食事をとりながら作業を行い、13時頃には屋外駐車場に隣接した車座でグループごとに、講師による中間エスキスチェックを行いました。学生たちの具体的なスケッチや図面をもとに、講師との活発な議論がされ、提案のアイデアがブラッシュアップされていきます。

中間エスキスチェックの様子


 また、15時頃には、過去にシャレットワークショップに参加したOB・OGが駆けつけ、スタッフも全員が揃い、模型作業の準備も始まった。学生たちの集中した作業は続きます。

スタッフの模型作業準備の様子                     学生のグループ作業の様子


 夜の18時になると、屋外駐車場に隣接した車座にて行う、市民公開での成果発表会で、グループごとにまちづくりに対する具体的なアイデアや提案を発表しました。発表を踏まえ、市民も学生も席を輪にしての市民討論会を行い、学生たちの提案に対して、市民からの鋭い指摘や、それに対しての意見を学生たちも主張するなど、活発な意見交換が行われました。


中間発表会の学生発表の様子                        市民討論会の様子




2009年8月22日(土) ―4日目―
最終発表会まであと1日!緊迫した空気が漂う中、学生たちの作業が続きます。



 いよいよ最終発表会前日とあって、学生たちの表情も次第に緊張感高まる集中した作業が続きます。朝の9時から講師による前日の中間発表会・市民討論会の意見を踏まえたワンポイントアドバイスをグループごとに行いました。学生たちも昨晩の内容を復習し、提案に磨きをかけます。


講師によるワンポイントアドバイスの様子


 学生が作業をしていると、小・中・高校生の子供たちが現れました。これは、(社)青森県建築士会南黒支部の企画で、地域の子供たちにまちづくり提案に取組む学生たちの姿を見たり、模型の制作を体験してもらいました。


子供たちに模型の説明をする様子               学生たちによる提案の説明の様子


 4日目にもなると、さすがの若い学生たちも疲れが見え始めていましたが、地元の方からのスイカや食事などの差し入れを頂き、学生たちも作業を行うエネルギーを補給しました。


差し入れのスイカを食べる学生の様子              差し入れの食事を食べる学生の様子


 この日から黒石に詳しい酒井沢栄氏(鞄s市環境研究所)が講師に加わり、14時頃からの中間エスキスチェックをグループごとに行い、地域に根差した情報や知恵を授かりました。


中間エスキスチェックの様子


 他のグループは引き続き作業を行う、緊迫した空気が漂います。この頃の学生のアイデアや提案は、ビジュアルなスケッチ・CGパース、地図や図面、模型などに表現され始め、学生の作業も完成に向けて徹夜の作業となりました。


疲れの見える中で行う学生作業の様子            緊迫した空気の中の学生作業の様子




2009年8月23日(日) ―5日目― 
              ここが見せ場だ!これまでの提案の成果を市民の前でわかりやすく発表する。 

 最終日の今日は、学生の作業は前日の徹夜作業から引き続きの作業という佳境を向かえ、学生もスタッフも適宜仮眠をとりながらの作業となりました。徹夜明けの学生が食入るようにPC画面を見ていたり、「あと○○時間!」とスタッフの声が聞こえ、切羽詰まりながら模型を制作する姿は独特の空気感です。


徹夜明けの学生作業の様子


 また、学生と同じく、スタッフも徹夜で学生の模型作業をサポートします。模型作業は屋外での作業となり、夏季とはいえ肌寒い東北地方の夜の気温と風を凌ぎながらの作業となりました。


シャレットワークショップOB・OGの模型作業のサポートの様子


 プレゼンボードパネルの印刷、制作した模型を随時、最終発表会の会場に運搬する状況となりました。作業が終了したり、手が余った学生は、一息つく暇もなく、他の班を手伝ったり、プレゼンボードのパネル化や作品模型を運搬する箱を作ります。疲れもピークの時、時間との戦いで、焦りながらのバタバタの時間帯でした。


プレゼンボードパネルの準備の様子                  作品模型の箱づくりの様子

 

 14時をまわり、いよいよ最終発表会の始まりです。黒石市の産業会館でシンポジウム「黒石の『こみせ』とまちをつなぐデザインを考える」として、行われました。約70人の市民が会場に駆け付け、学生のプレゼンテーションを真剣に聞いていました。


最終発表会会場の様子                        全体計画班のプレゼンテーション


 連日の学生の作業や、講師の指導により洗練された学生の提案に対して、市民はぐいぐいと質問やコメントを出してくれるので、学生もたじたじですが、質問などに応戦します。CGパースのスライドが出ると、市民の方は「おっ!」というように食入るように見ていました。


「駅とこみせをつなぐ」班のプレゼンテーション       「商店街とこみせをつなぐ」班の市民からの質疑


一時休憩で、市民の方たちは飾られたプレゼンボードパネルや机に並べられた作品模型の周りに寄り、作品を真剣に見ていました。模型の周りで楽しそうに市民の方が話されているのが印象的でした。


プレゼンボードパネルを見る市民の様子          作品模型をもとにディスカッションをする市民の様子


 模型を見せながらのプレゼンテーションには、迫力がありました。市民の方も「ここはどうなっているんだ?」と言うように真剣に質問をしてきます。学生の作品は、どれも模型やスケッチ・パースなどのビジュアルで表現した作品なので、市民の方にとってもわかりやすく、具体的にイメージができるので、前向きな議論に発展していきます。


模型を市民に説明する「こみせ」班            模型をもとにプレゼンテーションをする「かぐじ」班


 最後には、なんと鳴海黒石市長が挨拶をしてくださいました。学生の提案に対し、「学生のみなさんの素晴らしい提案を黒石のまちづくりにつなげていきたい」と話され、学生も達成感で胸がいっぱいのようです。


模型をもとにプレゼンテーションをする「松の湯」班      鳴海黒石市長の挨拶


 17時をまわり、会場と作業場をみんなで片付け、宿泊場に戻って身支度を整えたら、地元の方と親睦会です。鳴海黒石市長にもそのままお付き合いいただき、学生・講師・スタッフ・地元の方で盛り上がりました。終盤には、柳川シャレットワークショップから恒例行事になっている学生への「修了証書」の手渡しです。ひとりひとり名前を呼ばれ、舞台で名前入りの修了証書が渡されます。この頃は学生も疲れを忘れ、開放感いっぱいで盛り上がっていました。

親睦会の様子                         修了証書の手渡しの様子







「学生と地域との連携によるシャレットワークショップ ―黒石の「こみせ」とまちをつなぐデザインを考える―」は、参加してくれた建築・都市計画系の学生、(社)日本建築学会都市計画本委員会都市計画・デザイン教育小委員会を中心とした講師陣、過去にシャレットワークショップに参加し今回駆けつけてくれたシャレットワークショップOB・OGと、当NPO法人まちづくりデザインサポートのスタッフ、そして何よりも地元の黒石市、黒石市教育委員会、黒石市商工会議所、(社)青森県建築士会南黒支部、株式会社こみせなどの方々の多大なご協力とご支援があって、無事成功となりました。ここにお礼と感謝を申し上げます。

学生のみなさんも本当にお疲れさまでした。




(社)日本建築学会都市計画本委員会都市計画・デザイン教育小委員会

特定非営利活動法人まちづくりデザインサポート



文責:泉山塁威/NPO法人まちづくりデザインサポート